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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)156号 判決 1982年2月25日

原告

デユラツクス・オーストラリア・リミテツド

被告

特許庁長官

右当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

特許庁が昭和47年審判第2570号事件について昭和54年5月18日にした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

原告は、主文同旨の判決を求め、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「重合物分散液とその製法」(後に「重合物分散液の製造方法」に訂正)とする発明につき、1967年7月6日オーストラリア国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和43年7月6日特許出願をした(以下、この発明を「本願発明」という。)ところ、昭和46年12月17日拒絶査定を受けたので、昭和47年5月4日これに対する審判を請求し、特許庁昭和47年審判第2570号事件として審理されたが、昭和54年5月18日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年5月30日原告に送達された(なお、出訴期間として3か月が附加された。)。

2  本願発明の要旨

合成付加重合体を溶解しえない不活性有機液体媒質中の該合成付加重合体の安定分散液を製造する方法において、

不活性有機体媒質により溶媒和されうる成分及び分散重合体粒子と会合しうる成分の両成分を有する高分子量安定剤の存在下に、少なくとも1種のα、β―エチレン系不飽和単量体を不活性有機液体媒質中で重合させること、

該高分子量安定剤の各分子は前記重合反応中にα、β―エチレン系不飽和単量体と共重合して分散重合体粒子の部分をなす1個ないし10個の重合性2重結合を有すること、そして

該高分子量安定剤の溶媒和可能成分は分散重合体粒子の周囲に安定化のための立体障壁を与えること、を特徴とする合成付加重合体の安定な分散液の製造方法。

3  本件審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対し、本願発明の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特許出願公告昭40―19186号公報(以下、「引用例」という。)には、「ビニル単量体(α、β―エチレン系不飽和単量体)を有機液体中で重合させて有機液体中のビニル重合体(合成付加重合体)の安定分散液を製造するに当り、該有機液体によつて溶媒和された成分と該単量体と共重合するビニル基を含有する化合物(C)の存在下で重合する方法。」が記載されている。

そこで、本願発明と引用例記載の方法とを対比すると、引用例に示された化合物と本願発明で用いる高分子量安定剤とは、いずれもビニル単量体を有機液体中で重合させて安定分散液を製造するに当り、生成する分散液を安定化するために重合系中に存在させるものであり、しかも溶媒和成分及び共重合性2重結合を有している高分子化合物である点で軌を1にするものであるところ、本願発明の高分子量安定剤については、さらに、分散重合体粒子と会合しうる成分をも有すること及び溶媒和可能成分が分散重合体粒子の周囲に安定化のための立体障壁を与えることの要件が特に明示されている点で相違する。

しかしながら、重合反応系に存在させるべき化合物として引用例に記載された化合物は、本願発明の高分子量安定剤に対して上位概念で示されているというべきであるから、添加剤としての上記のような非常に抽象的機能的な付加的要件のみによつては、引用例に記載された分散液の製造方法に対し、本願発明の分散液の製造方法が直ちに別異の方法であると断定するまでには至らない。

したがつて、本願発明は、引用例に記載された方法と同一の方法であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

4  本件審決の取消事由

本願発明の構成は、(イ)合成付加重合体を溶解しえない不活性有機液体媒質中の該合成付加重合体の安定分散液を製造する方法であること、(ロ)不活性有機液体媒質により溶媒和されうる成分及び分散重合体粒子と会合しうる成分の両成分を有する高分子量安定剤の存在下に、少なくとも1種のα、β―エチレン系不飽和単量体を不活性有機液体媒質中で重合させること、(ハ)該高分子量安定剤の各分子は上記重合反応中にα、β―エチレン系不飽和単量体と共重合して分散重合体粒子の部分をなす1個ないし10個の重合性2重結合を有すること、(ニ)該高分子量安定剤の溶媒和可能成分は分散重合体粒子の周囲に安定化のための立体障壁を与えることであるところ、引用例の方法は、右(ロ)、(ハ)の各構成要件を開示しておらず、到底本願発明が引用例に開示されているということはできない。また、本願発明と引用例の方法は、方法全体としても差異のあるものである。したがつて、以下詳述するとおり、本願発明と引用例の方法とを同一発明とした本件審決は、その認定判断を誤つたものとして取消されるべきものである。

なお、引用例に審決認定の方法が記載されていること、本願発明で用いる高分子量安定剤と引用例に示された化合物(C)が、いずれもビニル単量体を有機液体中で重合させて安定分散液を製造するにあたり生成する分散液を安定化するために重合系中に存在させるものであり、しかも溶媒和成分及び共重合性2重結合を有している高分子化合物である点で軌を1にするものであることは、争わない。

1 引用例における構成要件(ロ)及び(ハ)の欠缺について

引用例の方法では、有機液体によつて溶媒和された成分と単量体と共重合するビニル基(2重結合を有する基)とを含有する化合物(C)の存在下で重合が行なわれるが、この化合物(C)自体は安定剤ではない。化合物(C)は、単量体が重合する際、少量の単量体と共重合(グラフト共重合)する。このとき生成する重合体鎖は、単量体の重合体と同様、有機液体中に不溶性で、そのため溶媒和されない。このグラフト共重合体の非溶媒和重合体鎖は、単量体の重合体に、化学的に同一の鎖同志の間で発生する吸引力によつて引き付けられ、重合体の周囲に、グラフト共重合体の溶媒和成分(化合物(C)の枝)の障壁ができ、これによつて、重合体の安定な分散液が得られるのである。したがつて、引用例で安定剤の役目をするのは、化合物(C)と単量体とのグラフト共重合体なのであつて、化合物(C)自体では、安定剤の役目は果しえないのである。そして、引用例の安定剤は、もはや2重結合(ビニル基)を有しない。

これに対して、本願発明の安定剤は、有機液体媒質により溶媒和されうる成分(引用例では化合物(C)に相当する)と分散重合体粒子と会合しうる成分(引用例ではグラフト共重合体鎖に相当する)の両成分からなるもので、しかも重合性2重結合を有するのである。

右のような引用例と本願発明の相違の結果、本願発明で単量体は高分子量安定剤の存在下で重合するのに対し、引用例では安定剤の生成と単量体の重合とが同時に行なわれる(構成要件(ロ)の欠缺)。いいかえると、単量体の重合は、本願発明では、有機液体媒質により溶媒和されうる成分と分散重合体粒子と会合しうる成分の両成分を有する高分子量化合物の存在下で行なわれるのに対し、引用例では、有機液体媒質に溶媒和されうる成分を有するのみの化合物(C)の存在下で単量体の重合が行なわれるのである。右のように、引用例における化合物(C)は、会合成分を有しない。会合成分は、化合物(C)の他の要件である溶媒和成分あるいは重合性2重結合に包攝される下位概念ではなく、別個の独立要件である。化合物(C)は、本願発明の安定剤に対し上位概念によつて示されているものではない。

また、本願発明の高分子量安定剤は、重合性2重結含を有するのに対し、引用例の安定剤(化合物(C)と単量体とのグラフト共重合体)は、2重結合(ビニル基)を有しない(構成要件(ハ)の欠缺)ことになるのである。

2 引用例と本願発明の方法全体としての差異について

引用例と本願発明とは、化合物(C)と安定剤との違いのみならず、方法全体としても極めて異つている。すなわち、

引用例の方法は次のように進行する。

(1)  重合開始前は、単量体及び化合物(C)は溶媒中に均一に分布している。

(2)  重合開始後、トロムスドルフ効果発現前の初期段階では、単量体相互の重合と、単量体と化合物(C)との共重合が比較的遅い速度で進行し、低分子量の可溶性重合体が生成される。

(3)  溶液中で形成される重合体の量が溶解度を越えると、重合体は分離析出する。そしてトロムスドルフ効果の発現により重合速度は急激に増大し、重合体は相互に構造が同一なため相互引力により塊になる。化合物(C)は溶媒和成分の影響を受けて溶媒中にとどまり、重合体塊へ近づきにくい。

(4)  低分子量の重合体と前記(2)の段階で共重合した化合物(C)はその重合体部分の影響で重合体の塊の周囲へ吸引され、立体障壁を形成する。

これに対し、本願発明は次のように進行する。

(1) 重合開始前は、単量体及び安定剤は溶媒中に均一に分布している。

(2) 重合開始後、トロムスドルフ効果発現前の初期段階では、単量体相互の重合と、単量体と安定剤との共重合が比較的遅い速度で進行し、低分子量の可溶性重合体が生成される。

(3) 溶媒中で形成される重合体の量が溶解度を越えると、重合体は分離析出する。安定剤自体が重合体と同一構造部分を有するので、安定剤は重合体塊に引きつけられ、安定剤と単量体との共重合は塊内部において起る。重合体速度の増大と同様に、安定剤の共重合速度も増大する。

(4) 安定剤の2重結合から成長した重合体鎖は重合体塊中に複雑に絡んでおり渾然一体化している。それゆえ安定化効果は一層大きくなる。

右のとおり、引用例の方法と本願発明とは、重合体が沈殿した後の化合物(C)と安定剤との間の挙動が極めて異なるばかりでなく、最終段階において、引用例の方法では、重合体の中ではなく周辺に化合物(C)と単量体との重合体が安定剤として立体障壁を形成するのに対し、本願発明では、安定剤自体が重合体と一体化し重合体内部に複雑に絡んではいり込み、より安定効果のある立体障壁を形成している点において顕著な相違がある。

第3被告の陳述

1  請求の原因1ないし3の事実は、いずれも認める。

2  同4の審決取消事由の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。

1 原告の主張する引用例における構成要件(ロ)の欠缺について

本願発明において安定剤として使用する化合物は、引用例の化合物(C)の満たすべき条件をすべて満しているのであるから、この化合物(C)の概念に包含されているというほかはなく、当然に下位概念に属する化合物であるというべきである。しかも、引用例においては、この化合物(C)を安定剤として用いることが意図されていることは明らかであり、このことは引用例の実施例におけるこの化合物の製造例が安定剤用化合物の製造であると明示されているところからも理解できる。このように、引用例の化合物(C)は本願発明の高分子量安定剤に対して上位概念で示されているというべきである。

また、原告は引用例の化合物(C)には会合成分が存在していないと主張するが、これも、単にこの化合物(C)が会合成分を有しているとは明示されていないというか、あるいは溶媒和成分と共にあらかじめは会合成分を有することは考えていなかつたというにすぎないのである。引用例の方法においても、重会反応の進行に伴ない、化合物(C)に会合成分が生成し、これが最終的な分散重合体の分散に寄与するようになるのである。

審決は原告の主張する会合成分が引用例に明示されていると断定しているものではないけれども、引用例においては、α、β―エチレン系不飽和単量体(ビニル単量体)を不活性有機液体媒質中で化合物(C)の存在下に重合を開始させると、該単量体が化合物(C)にグラフト共重合し、こうして得られた該単量体の重合体鎖(会合成分)と溶媒和成分との存在下で更に重合反応が進行して、該単量体の重合体を分散重合体とする安定な分散液が製造されるのである。そして、このグラフト共重合による該単量体の重合体鎖(会合成分)の生成は、後述のとおり、本願発明においても行なわれているのであるから、引用例の方法と本願発明の方法との間に格別の相違があるということはできない。まして、本願発明においてあらかじめ存在させるべき会合成分の量が特定されているわけではないから、なおさら、本願発明に引用例の方法と比較して別個の発明となると評価するに値すべき要素を見出すことはできないのである。

2 原告の主張する引用例における構成要件(ハ)の欠缺について

引用例にはその特許請求の範囲の欄においても、化合物(C)が単量体と共重合する重合性2重結合(ビニル基)を有することが明示されており、引用例に原告の主張する構成要件(ハ)が開示されていることは否定することができない。

しかも、この重合性2重結合(ビニル基)は、重合すべき単量体であるエチレン系不飽和単量体(ビニル単量体)との共重合反応を行なうべきものであり、化合物(C)と結合した重合体鎖を形成するものである。このようにして生成した重合体鎖が分散重合体と同一構造であることは疑いのないところである。

本願発明におけるビニル結合も、単量体との共重合反応を行なうべきものであつて、本願発明の安定剤に該単量体の重合体鎖を形成するためのものである。このようにして形成された重合体鎖も分散重合体と同一構造を有するのである。

このように、引用例において生成する重合体鎖も本願発明において生成する重合体鎖も、いずれも、重合すべき単量体の重合体鎖なのであつて、分散重合体と同一の構造を有するのであり、分散重合体に対する会合成分としての作用を有するものである。したがって、引用例における重合性2重結合(ビニル基)と本願発明における重合性2重結合との間には、その作用効果においても相違が認められないのであり、引用例における重合性2重結合(ビニル基)は、本願発明の「重合反応中にエチレン系不飽和単量体と共重合して分散重合体粒子の部分をなす重合性2重結合」と同一の性格を有するものである。

3  原告の主張する引用例と本願発明の方法全体としての差異について

本願発明も引用例の方法も、いずれも安定分散液を製造しているのであつて、原告の主張する反応機構論あるいは現象論に従つたとしても、両者が別個の発明になるわけではない。

原告の主張に従つたとしても、引用例の方法においても、その反応の初期にまず化合物(C)と単量体とが共重合し、そうして生じたグラフト共重合体が安定剤として作用するのである。本願発明においては、あらかじめ存在させておくべき会合成分の量が特定されているわけではないから、引用例の方法において少量でも一旦グラフト共重合が生起すれば、既に会合成分が存在することになるのである。そうすると、原告の主張する反応機構上からも、少なくとも、その時点から本願発明の方法は引用例の方法と全く同様に進行することになるのであつて、両者の間に差異を生ずべき根拠も見当らず、生成する分散液に相違を生ずべき理由もない。

第4証拠関係

原告は、甲第1号証、第2号証の1、2、第3号証及び第4号証を提出し、被告は、甲号各証の成立を認めた。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、審決取消事由の存否について、判断する。

引用例に審決認定の方法が記載されていること、本願発明で用いる高分子量安定剤と引用例に示された化合物(C)が、いずれもビニル単量体を有機液体中で重合させて安定分散液を製造するにあたり生成する分散液を安定化するために重合系中に存在させるものであり、しかも溶媒和成分及び共重合性2重結合を有している高分子化合物である点で軌を1にするものであることは、原告の認めて争わないところである。

成立に争いのない甲第2号証の2(本願発明の全文訂正明細書)によれば、本願発明において、α、β―エチレン系不飽和単量体を不活性有機液体媒質中で重合させるに際し、存在させるべき物質は、不活性有機液体媒質により溶媒和されうる成分及び分散重合体粒子と会合しうる成分の両成分を有し、且つα、β―エチレン系不飽和単量体と共重合して分散重台体粒子の部分をなす1個ないし10個の重合性2重結合を有する高分子量安定剤であることが認められる。

一方、成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例の方法において、ビニル単量体(α、β―エチレン系不飽和単量体)を有機液体(ビニル単量体を溶解するが、該単量体の重合によつて形成される重合体を溶解しえない。)中で重合させるに際し、存在させるべき物質は、該有機液体によつて溶媒和された成分と該単量体と共重合するビニル基とを含有する化合物(化合物(C))であること、その溶媒和された成分は、少なくとも1,000の分子量をもつものであることが好ましく、満足な分散液は1,000ないし100,000の分子量、なるべくは1,500ないし10,000の分子量の溶媒和された成分を用いる場合に得られることが認められる(第2頁左欄37行目ないし46行目及び特許請求の範囲の項)。

本願発明と引用例の方法とを比較すると、本願発明における高分子量安定剤は分散重合体粒子と会合しうる成分を有することを要件としているのに対し、引用例の方法における化合物(C)は、高分子量化合物ではあるが、分散重合体粒子と会合しうる成分を欠いている点において、両者は相違するといわなければならない。

右の点に関して、審決は、「重合反応系に存在させるべき化合物として引用例に記載された化合物(C)は、本願発明の高分子量安定に対して上位概念で示されている」という。

そこで検討するに、前掲甲第3号証によれば、引用例には、化合物(C)の具体例として、スチレンーアルリルアルコール共重合体のメタクリル酸無水物によるエステル化物(実施例1。第3頁左欄15行目ないし30行目。)及びブチルメタクリレートーアルリルアルコール共重合体の無水メタクリル酸によるエステル化物(実施例2。第3頁右欄7行目ないし20行目。)が記載されていることが認められる。そして、右各実施例における分散重合体(ビニル単量体の重合によつて形成される重合体)は、メチルメタクリレートの重合体であり、その構造はなる繰り返しの単位を有するものであるが、前掲甲第2号証の2(第7頁2行目ないし4行目)によれば、安定剤と右のような分散重合体粒子との間の会合力は、安定剤成分と分散重合体粒子との間に発生する質量に依存する力であつたり、安定剤中の極性基と分散重合体中の反対極性基との間の強い特異相互作用によつたりもするが、両者が類似の重合体構造を有することが大きな要因をなすものであると認められる(右認定に反する証拠はない)ところ、引用例の前記実施例における化合物(C)は分散重合体である実施例のメチルメタクリレート重合体と構造において類似するところがなく、他に引用例には、化合物(C)に分散重合体粒子と会合しうる成分が存在することについて何らの記載もないから、引用例における化合物(C)は分散重合体粒子と会合しうる成分を有しないものといわざるを得ず、引用例における化合物(C)は本願発明の高分子量安定剤に対して上位概念で示されているとの審決の認定も、結局は誤りといわなければならない。

被告は、引用例の方法において、ビニル単量体と化合物(C)との間で一旦グラフト共重合が生起すれば、既に会合成分が存在することになるから、少なくともその時点から引用例の方法は本願発明と全く同様に進行することになり、両者の間に差異は生じないと主張する。

しかしながら、仮に、ビニル単量体と化合物(C)との間でグラフト共重合が生起すれば、そのグラフト共重合体中に、ビニル重合体に対する関係で、本願発明の安定剤中、分散重合体粒子と会合しうる成分の、分散重合体粒子に対するものと同様な会合関係が成立しえ、したがつて、右グラフト共重合以後は引用例の方法における反応と本願発明の方法における反応とが同じように進行するものとしても、本願発明も引用例も共に方法の発明であつて、その出発物質に差異があれば、途中の過程において同一のものがあつても、発明としてはこれを同一のものとすることはできないものといわなければならない。しかして、引用例における化合物(C)が本願発明の高分子量安定剤に対して上位概念で示されるものでないことは前説明のとおりである。被告の主張は理由がない。

右のとおりである以上、審決における前記認定の誤りは、本願発明と引用例の方法とを同一の発明とするその結論に影響を及ぼすものというべきである。

3  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(高林克巳 楠賢二 杉山伸顕)

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